An Di:ベトナム料理を覆す芸術

三茶民は時折、表参道や外苑前に修行に出向く。この2つの駅は、”半端なくおしゃれ”を代表する駅だからだ。三軒茶屋にはない圧倒的なおしゃれさを体感することによって、三軒茶屋の中途半端なおしゃれさをより深く愛せる。そんな思惑での修行である。

修行1日目は、外苑前のリストランテホンダで美食を堪能した。修行2日目である今日は、同じく外苑前のAn Diに足を運ぶことにした。

An Diは、イノヴェーティブなベトナム料理店である。西麻布にある独創的なフレンチレストランであるレフェルヴェソンスの元シェフがやっているとのことで、期待が高い。

などと書いてはみたが、庶民の代表格とも言える三茶民にはハイコンテクストすぎる。そもそもカタカナが多い文章自体に滅入ってくる。三茶にあるカタカナは「キャロットタワー」ぐらいである。

入り口は「これぞ、ザ・外苑前!」といった気取ったものではなく、どちらかというと庶民的である。三茶民でも入ることが許されそう。植物がたくさん植えられており、メコン川沿いに生い茂る木々をなんとなく想起させる。

店内は、木目をベースにしたインテリアや植物が多い。スタイリッシュでありながらもどこか落ち着くという、絶妙なバランスの店舗設計である。植物が天井からぶら下がっているのが今時風である。

アラカルトメニューもあるようだが、今回はコース料理を注文した。なお、パクチーが苦手な場合は、最初に言っておけば、全料理をパクチー抜きで提供してくれる。

1品目は「ティーリーフサラダ」。サラダと言っても、季節の野菜のほかに発酵させた茶葉やココナッツなどが入っており、サラダという言葉からイメージする料理からはかけ離れている。かかっているのはいちごのドレッシング。甘味や苦味が入れ替わり立ち代わり舌を満たしていき、最後まで様々な風味を楽しめる。

2品目は「バインセオ」。写真のものをロール状に巻いて食べた。肉はなんと馬肉。柑橘の皮も入っており、ハーブの香りも豊かである。さっぱりとした味わいでありながら、一口ごとに味が変わるので最後の一口まで飽きが来ない。シンプルに見えて奥深い一品であった。

3品目は「生春巻き」。ベトナムといえば生春巻きだが、An Diの生春巻きは一味違った。中に入っているのは、たけのこやれんこん、京にんじん、モロッコインゲン、パイナップル、しそなどであり、レモングラスのポン酢につけて食べる。ほどよい噛み応えと、複雑で爽やかな香りが味わい深い、唯一無二の生春巻きであった。

4品目は「さわらのせいろ蒸し」。ディルの花やココナッツ、キウイのソースなどがかかっており、全体的にハーバルでフルーティだ。さわらもふわふわと柔らかい。和食のせいろ蒸しにベトナムの風を吹かせたオリジナリティの高い一作であった。初夏にふさわしい。

5品目は「子羊のロースト」。最後は重ための料理が登場かと思ったが、シナモンやふきのとうソース、ブラッドオレンジといった爽やかな付け合わせ。肉料理だけど軽やかな印象である。いずれも子羊の旨味を引き立てており、噛めば噛むほどジューシーなハーモニーが楽しめる。

6品目は「フォー」。フォーもベトナムの代表的な料理である。鶏のだしが効いた透明なスープに、塩レモンを溶かしたりクレソンを入れたりしながら味を変えて楽しむことができる。スープが異様においしく、無限に食べたいと思わされる。米粉で出来ていると思われる麺もつるつるしておりスープとの相性が良い。

7品目は「ココナツプリンといよかんシャーベット」。これまた爽やかなデザートである。カモミールの花やディルの葉っぱが乗っており、アクセントになる。

An Diの料理は、ベトナム料理を元型に、フレンチの技法や和のエッセンスを融合させたオリジナリティの高い料理ばかりであった。また、味覚の組み合わせやハーブの使い方が実にうまく計算されていると感じた。味や香りという現象に熟練していることがよく伝わるプロの仕事である。どの料理も、確実にこの店でしか食べられないし、ベトナム中を探しても出会うことができないだろう。日本人だからこそ作れる芸術作品なのである。

外苑前の”半端なくおしゃれ”は、決して見た目や雰囲気だけで構成されているのではない。おしゃれとは、確かな実力に裏打ちされている結果に過ぎないのだ。新たな悟りを得た三茶民の修行はこれからも続く。

An Di 公式ホームページ:http://andivietnamese.com/

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