HiDE FARM KITCHEN:思い出のアメリケーヌソース

「今日はパスタが食べたい」

「今日はラーメンの気分だな」

ランチを何にするかは、多くの場合、その時食べたい物によって決まる。この場合、パスタであれば比較的どの店でも許せ、ラーメンも嗜好に合う中から選べさえすれば文句がない。

しかし、時には「あのお店の、アレが食べたい」と、店と料理を同時に指名することもある。そして、三茶民にとっての同時指名は1パターンしかない。

「HiDE FARM KITCHENの、海老と帆立のアメリケーヌソースの焼きリゾットが食べたい」

それほどまでに、この店のこの焼きリゾットは、忘れられないほど魅力的なのだ。

HiDE FARM KITCHENは、三茶の駅から世田谷通り沿いに10分ぐらい歩いていれば辿り着く。入口は地味であり、階段を登り切るまでは、そこに感動の料理が待っていることは想像がつかない。

店内に入れば、白と木目を基調としたアットホームな雰囲気が私たちを迎える。私たちがどんなにスッピン眼鏡のコルモピアファッションで行こうと、店を営んでいる夫婦は優しい接客をしてくれる。すなわち三茶民大歓迎の店なのである。おそらく、三茶の中で1番足を運んだ回数が多い店である。

メニューはいろいろある。我々のおすすめは、「海老と帆立のアメリケーヌソースの焼きリゾット」である。

なぜなら、この焼きリゾットが美味しすぎて、毎回「今日こそ別のメニューを頼んでみるぞ」と決めて来店するのに、必ずこの焼きリゾットを選んでしまうからだ。HiDEに行きたいとはすなわち、この焼きリゾットを食べたいことを意味するに等しかった。それぐらい、忘れられないおいしさなのである。

すべての料理にサラダがついてくる。オニオンドレッシングとコーンの甘味が美味しいサラダを食べながら、焼きリゾットが出来上がるのを待つ。夫婦二人で回されているため、混雑具合によっては待ち時間がやや長いこともある。時間にゆとりのある時に行くのが良いだろう。

そしてこれが、噂の「海老と帆立のアメリケーヌソースの焼きリゾット」だ。濃厚なエビのソースの中に、チーズが練りこまれた焼きリゾッ島が浮かんでいる。島の上では、海老とホタテが乱舞している。島の表面に点在するカリカリとした何かも、食感のアクセントになっている。

程よい焦げ目のパリパリ感、濃厚なエビとチーズのハーモニー、チーズと一緒に溶けてしまうほど柔らかい米。最初に一口から最後の一口まで、本当に最高なのである。こんなにおいしい焼きリゾットは、この店にしか存在しない。

食事を終えて、ペパーミント色のドアが可愛いトイレに行った。そこには、ある張り紙が張られていた。

「 HiDE FARM KITCHENは、2019年7月19日をもって閉店します」

店内の黒板にチョークで描かれている「5th Anniversary」の文字も空しく、そこには衝撃の告白が綴られていた。なんでも、店主が運送業の家業を継ぐことになったようだ。

あまりのショックで、私はその晩泣いてしまった。今まで幾多のレストランに行ったが、閉店がこんなに悲しい店は初めてである。

もう、この奇跡のような焼きリゾットを食べられる日来ないのか。

あまりに行き過ぎて「いつもありがとうございます」とおっしゃってくれる、あの優しい店員さんの接客を受けることももう二度とないのか。

「今日はヒデに行きたい」「いいね、行こう!」

三茶で過ごす休日の彼氏とのそんな会話も、行き場をなくしてしまうのか。

・・・・

三茶において、レストランの閉店は日常茶飯事の出来事だ。すべてのものは必ず失われてしまうことは、人生の避けがたい悲しみの一つだとも分かっている。

それでも、あまりに喪失感が大きかった。なぜかは知らないが、わたしはそれぐらい、この店も、アメリケーヌソースの焼きリゾットも愛していたのだ。

この先の人生、HiDE FARM KITCHENが記憶に遺してくれた感動の美味しさと、彼氏との穏やかな三茶生活を象徴するようなランチの思い出を、忘れずに生きていきたいと願う。どうか我がニューロンよ、年を食っても記憶を薄めないで欲しい。

間違いなく三茶の名店であり、存在に拍手を送りたい店であった。この店が三茶に存在し、私と出会ってくれたことに、心から感謝を申し上げたい。

HiDE FARM KITCHEN 公式ホームページ: http://www.hide9.com/

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