le sputnik:六本木の地で海と森を旅する

ギロッポン。それは、近いようで遠い街。駅で言えば5駅隣だが、鉄道会社の異なる3路線を要するので、片道423円。地下に潜らせる都営大江戸線が、乗り換え時間と億劫さを増大させている。これを、近いようで遠いと言わずして、なんと言えばよいのだろう。

三軒茶屋と六本木の間には、無限に遠い距離が存在する。まるで”同じ島だがイマイチ仲良くない会社の同僚”が、なんとも言えない距離の遠さであるように。

「le sputnik(スプートニク)」は、そんな近くて遠い街の一角に、ひっそりと佇んでいる。

ミシュランスターを獲得している店と聞くと、一見華やかな印象を受ける。しかし、ミシュランスターを獲得している店に限って、店の外観がおとなしい。外苑前のリストランテホンダがそうであったように、ルスプートニクも例外ではなかった。

店内のテーブルの数は5~6台程度であり、こじんまりとしている。飾りすぎない、白や茶色を基調としたカラーリングで統一されており、どこかぬくもりを感じさせる。

テーブルに着くと、一枚の紙が置いてある。ルスプートニクにとって、料理とは旅であるようだ。これから旅が始まるようなワクワク感。これも一つの「前菜」なのかもしれない。

1皿目は、山口県産のアマダイ。桃がロールされている。一週間熟成されているようで、生ハムのような印象も抱く。こちらは一口でいただく。柔らかく、ふわっとしている。白身魚の繊細さと桃の控えめな甘さが、旅の始まりを告げる。

2皿目は、枝豆のチュロス。個人的には「座礁した枝豆」と呼びたい外観である。チュロスは枝豆の甘さが引き立っており、サクサク。これまで食べたことのない新しい枝豆の頂き方であった。チュロスの下敷きになっている枝豆の部分も食べられる。かなり高級な酒のつまみといったところである。

3皿目は、オマールエビ。オマールエビのエキスで作られたゼリーの上に、オマールエビの断片と、焼きナスから作ったムースが浮かんでいる。オマールエビの風味を堪能できるだけでなく、どことなく海の香りも感じられる。焼きナスのムースは甘い。ただのナスではなく、わざわざ焼きナスを使用しているのは、この甘味のためなのだろう。

現在までの3品を見る限り、今回の旅のテーマは「海」であるように思えてきた。アマダイのように泳ぎ、枝豆の島で一休みしながら、キラキラと光が反射する水面(ゼリー)を眺める。こんな作者の意図総無視の勝手な想像も、料理においしさを添える一助となるかもしれない。

4皿目は、とうもろこしのスフレと、とうもろこしアイス。これは個人的には、「無人島にある観測所」に見える。スフレの上にはトリュフがかかっており、スフレの下にはとうもろこしのソースのようなものが入っている。とうもろこしアイスには刻んだベーコンが少量添えられており、ベーコンの旨味と塩味がとうもろこしの甘さを引き立てる。バニラビーンズの香りも甘さを拡張する。とうもろこしの甘味を、ことなるテクスチャで味わい尽くせる一皿である。

5皿目は、骨切りしたハモ。引き続き、舞台は海である。ハモのシャーベット、ジュレ、フルーツトマトやフェンネル、じゅんさいが合わさっている。ハモは少しだけ火入れしてあり、少しコリコリしていて柔らかい。ハモの旨味とフルーツトマトの甘味、じゅんさいのつるつる感が、フレッシュで夏らしい印象を与える。

なお、パンはこちら。周りは硬めで、中は柔らかいタイプのパンである。小麦の風味が強く、バターとの相性も良い。噛めば噛むほど味が出てくる。食べすぎに注意である。

6皿目は、もち米パウダーで揚げたあゆ。アボカドとししとうの天ぷらの上に折り重なっている。周りはプチプチ、中身は柔らかいという面白い食感も特徴の1つだ。ソースは、スイカと海苔のソース。あゆの旨味とスイカの酸味、海苔の風味という異色のコンビネーションを楽しめる。アブストラクトなブルーのプレートも海らしさを強めている。

7品目は、カキの燻製。黒く見えるのがカキであり、竹炭のパウダーがまぶされている。その下には焼きナスが隠れている。ソースは、バルサミコ酢とフランスの3種類のチーズが混ざったソースである。カキはぷりっとしており、チーズと合わせるとクリーミーで美味である。ナスはしょうがのような風味が感じられる。これまでには食べたことのないカキの食べ方であった。

8品目は、ビーツで出来た薔薇。何より見た目が大変美しい。ビーツでできた薄いチップスが花びらになっており、プレート上の線もビーツのソースで出来ている。薔薇の下には、フォアグラのテリーヌが隠されている。ビーツのチップスを1枚ずつはがし、パリパリと味わいながら、頬が落ちるようなフォアグラを少量ずつ丁寧に食べていく。空間を一気に贅沢に染め上げる一品である。

9品目は、じゃがいものパンケーキ。パンケーキという言葉からイメージするものよりはだいぶ小さい。生地はモチモチと張りがあるというよりは、どこかふわふわ・ほくほくとしたじゃがいもらしさを感じさせる。パンケーキの中央には、こんがりと焼いたうなぎとバナナが挟まっている。うなぎとバナナ。チーズソースの海を旅する途中で出会った、奇跡の組み合わせと言えよう。

10品目は、金目鯛。焼き目はパリパリとしているが、身の部分はとても柔らかく、旨味がたっぷりだ。土台となっているのはパパイヤで、くりぬかれた部分はしいたけのスープで満たされている。和を感じさせるしいたけやしょうがと、ジューシーで甘みの強い南国の味の未知なる出会いは、人類のおいしさ探求の旅が果てしないことを証明しているように思えた。

ラストを飾る11品目は、蝦夷鹿のロースト。海から地上へ、まるで生命の進歩を示しているようだ。鹿肉は噛み応えがあり、赤ワインと蝦夷鹿の血からできたソースがかかっている。添えてある木は、鹿の角をイメージしている。オーブンで半日熟したブドウや、甘味を最大限まで引き出したようなサツマイモも合わせられている。ジビエらしい、野性味と森の生命力を感じさせる一品だ。

12品目からはデザート。まずはお口直し的な、しそのジュレと桃。花びらのように散っているピンクのものは、しそのシャーベットを液体窒素で瞬間冷却させたものだ。しその花としその葉も散りばめられており、どこか儚さがある見た目である。桃の甘味としその爽やかな風味が、森の中で突如出現した花畑のような幻想的な風景をふっと思い起こさせる。

13品目は、チョコレートのデザート。チョコレートの原料である、カカオポッドをイメージしているそうだ。カカオポッドの殻に見立てたチョコレートの中には、チョコレートでコーティングされたハーブやカカオニブの粉末と共に、バナナが潜んでいる。かかっているのは、チョコレートのソース。このデザートを一言で言えば「世界一高級なチョコバナナ」。カカオという食材に対するリスペクトを感じるデザートである。

最後の14品目の小菓子。木を模したデザインが可愛らしい。実っているのは、ライチやベリーを感じさせるジャムがのった一口サイズのタルトである。自然界を生きる命が人間の命をつなぎ、おいしさを通じて生きる喜びを与える。海に始まり森に終わる旅は、そんな自然の恵みをテーマにした芸術作品だったのかもしれない。

料理は以上だが、異様に美味しかったワインを最後に紹介する。ピノブランというブドウ種で作られた「クリット(KRITT)」というワインである。フルーティな味わいで、とても軽く、さっぱりしている。今まで飲んだ白ワインの中で一番飲みやすく、何口でも飲みたいという気にさせられた。普段ワインを飲まない人にも、非常にオススメしたいワインであった。

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こうして、ルスプートニクでの海と森の旅は終わった。和食でも使われるような魚介類と、南国を感じさせるようなフルーツの組み合わせは、三軒茶屋と六本木のように、近いようで遠い味わいだった。食材への真摯な姿勢、徹底された引き算、そして「旅」というコンセプトに忠実なラインナップ。全体的に個性的で、新規性が高く、食べ物ひいては生き物への愛が感じられるコース料理であった。味覚を通じて自然の中へトリップする。そんな「食べるVR」とも言える、一流のお店であった。

le sputnik 公式ホームページ: https://le-sputnik.jp/

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